久しぶりにヴェネツィアの教会を巡ろう。場所はカステッロ地区の東北部、バポレットのチェレスティア停留所近くにある教会だ。私が出かけたのは、真夏のよく晴れた午前中だった。まぶしい陽光のあふれる広場から入口の扉をくぐると、急に闇に閉じ込められたような状態になり、しばらく目を慣らさないと何も見えないほど暗い空間があった。
そんな中で主祭壇がふんわりと赤く染まっている。他のどこの教会に行っても、赤くライティングした教会など見た事がなかった。なぜ? よく目を凝らすとその理由がわかった。祭壇後方の窓が赤い垂れ幕で覆われており、その布を通して夏の日が漏れてきている。とても強い光なので垂れ幕の赤を反映して祭壇全体が赤く染められていたのだ。意図的ではないのだろうが、何とドラマチックな演出になっているのだろうか。こんなハプニングに出会うのも、ヴェネツィアの旅の楽しみだ。
教会の外観。街の中心部からは離れているので全く観光客もおらず、静かなたたずまいが魅力だ。この鐘楼はかなり高く、サンマルコの鐘楼から見るとすぐに見つけられる。
絵画の中で最も印象的なのは、ネグロポンテの「聖母子」だろう。主祭壇の右側礼拝堂の右横、つまり、祭壇から入口方面に向かって振り返らなければ見えない場所に飾られている。しかも、絵そのものが暗い色調なので、うっかりすると見過ごしてしまいそうだ。
聖母は少し首を右に傾け、イエスをひざに抱いて両手を合わせるという敬虔な姿で描かれている。周囲の従者たちに比べて聖母は一段と大きく、その偉大さを強調するかのようだ。上方にまるで海の波のような模様と鮮やかな果実と葉による花輪のアーチが描かれて躍動感を与える一方、下の部分には鳥たちが遊ぶ風景があり、なんとも不思議な印象に包まれている。必見の一枚。ぜひ0・2ユーロでライトをつけてご覧あれ。
帰ろうとしたとき、神父さんが現れ、「隣の聖具室にはベッリーニもあるので、御覧なさい」と、教えてくれた。「聖母子と聖人たち」。ネグロポンテの聖母とはまた違った静謐な表情のマリア様だ。
中庭ではこのとき、現代作家によるインスタレーションも行われていた。新旧入り混じった意外性に富んだ教会でもある。
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