教会のミサを済ませてから、私は花火をサンマルコ広場で見るために、道を引き返した。ヴェネツィアに住むラウラの話だと花火の開始は午後11時30分。1時間前に着いていれば十分場所は確保できるだろう、という気持ちだった。道すがら3月22日通りのグッチやフェラガモなどのウインドウをのぞいたりしながら、10時30分には広場に到着した。
「ああ、広場の人たちはまだまだたいした数ではないようだ。これでじっくりと花火が見られるかな」
ところが、大聖堂から海側に向いた小広場は既に押すな押すなの大群衆。運河に面した通りにはとても近づけない状態になっていた。仕方がない。小広場の中ほど「カフェ・キオッジャ」のテーブル席の後方で開始を待つことにした。
山国で育った私にとって、花火の原点は幼い頃の夏祭りの線香花火だった。ぎこちなく着せられた浴衣姿で、神社に向かうあぜ道でホタルのゆらめきに歓声をあげた後、夜店で買った線香花火に母が火をつけてくれた。赤く丸い 火の玉がいくつもの炎のしぶきを発して光っていた。とても控えめで、でもとても心に沁みる輝きだった。
この夏は例年よりずっと早く熱波が街を包んでいた。昼の間は焼けるような日差しが照りつけていたが、11時を過ぎて、人いきれの中にもふっと涼をもたらす風が通り抜ける。イタリアの夏も、この時間になると優しさを取り戻す。大人になって大規模な花火大会も数多く見てきたが、初めての異国での花火が、今始まろうとしていた。
11時30分、珍しく正確に花火が始まった。だが、花火の打ちあがる場所が、想定していたところよりずっと右側で、行政館の建物の影になってしまっている。
聖テオドーロの像の背後に半分だけ花火が見えるといった状況で、キオッジャ周辺にいた人たちが一斉に左へ左へと移動を始めた。もちろんその場所にも人はあふれているので、かなり厳しい移動だったが、皆とてもフレンドリーにスペースを譲り合ってくれ、どうにか花火全体が見える所まで移動することが出来そうだった。
最近のコメント