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イタリア最果ての街 トリエステ  血の色の海

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 新年明けましておめでとうございます。

 今年もブログ「イタリアの誘惑」をよろしくお願い致します。

昨年はタイトルとは裏腹にイタリアではない所ばかり掲載してしまいましたが、今年は原点に戻ってイタリアから出発することにいたします。第一回目はトリエステです。

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 トリエステに着いたのは、爽やかに晴れ渡った午後だった

 ホテルのチェックインを終えるとすぐ 海に向かった

 
 3階の部屋から垣間見えた 海の切れ端

 それが 通りを一つ越えた途端に

 青いカーテンのように ふんわりと目の前に広がった

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 アドリア海に突き出た一本の長い埠頭

 季節はもう冬だというのに

 コートどころか セーターさえも脱ぎたくなるような

 暖かさが 港を包んでいる

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 老人夫婦 家族連れ 若者たち

 さまざまな人たちが この埠頭を目指して集まってくる

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 店があるわけではない イベントが開かれるわけでもない 

 あるのは海だけ

 そんな場所に 世代を超えて続々と人が集まってくるのだ

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 モーロ・アウダーチェ

「勇者の埠頭」と名付けられた場所

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 その勇ましい名前とは裏腹に 

 集う人たちの眼差しは 慈しみに満ちている

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 まだ10代と思える 旅の途中の女性が

 釣り糸を垂れていた老人に尋ねた

 「この海の向こうには 何があるんでしょうか」

 「海の向こうかい?向こうにあるのは イタリアだよ」

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 トリエステはイタリア

 しかし 街の玄関口 駅前にあるのは

 ハプスブルク帝国の女帝だったエリザベートの銅像

 角の土産物店では モーツアルト・チョコが売られている

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 文士たちが通ったという老舗のカフェは 

 アール・ヌーボーの香りで満たされていた

 

 第一次世界大戦までは 長期にわたってオーストリアの土地だった

 当時は内陸の国唯一の港湾都市として

 ゆるぎない地位を築いていた

 が 港だらけのイタリアに復帰したとたん

 その存在価値は 辺境の一都市に落ち込んだ

 

 過去の歴史に対する強い郷愁と

 ほのかにくすぶる憎悪

 今の 置かれた立場への 心のゆらぎ

 そんなエトランゼとしてのイタリアが

 ここに漂っているかに思える

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 青かった海が 次第に

 オレンジ色に染められて行くにつれ

 人々は寡黙になっていく

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 視界の先にあるのは アドリア海に沈みゆく太陽

 潮騒のリズムに合わせて きらめく光の粒が波頭に広がり

 黄昏の世界は 急速に赤みを増して焼けつく

 何という色だろうか

 脳裏には一つの言葉しか 浮かばなかった

 「血の色の海」

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 哀しいまでに美しい 光の変化を

 常に見続けて生きる人は

 心に何を宿すのだろうか

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 すっかり日が沈み 宿に向かって歩くうちに

 運河にぶつかった

 ヴェネツィアとは一味違った 真っ直ぐに延びる運河

 その突き当たりに建つ サンタントニオ教会が

 黄金の衣をまとって闇に浮かび上がる

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 夜とはいっても まだ8時を過ぎたばかりなのに

 街路を歩く人の姿が とても少ない

 その分だけ 石畳を踏みしめる靴音が

 乾いて響く気がする

 風が出てきた それも急に勢いを増し

 ボタンをはずしていたコートが

 引きちぎられるかのように 翻った 

 夕方までの暖気はどこに行ったのだろうか

 刺すような冷たさが 街を吹き過ぎる

 

 交差点で信号待ちしていた女性に聞いてみた

 「これがボーラという風でしょうか?」

 冬のトリエステに吹き荒れるという

 季節風のことを思い出したからだ

 女性はかすかに笑みを含んで 首を横に振った

 

 代わりに ハンチングの良く似合う 老紳士が答えてくれた

 「ボーラはね。こんなもんじゃあないよ

 ボーラが吹いたら あんたなんか飛ばされてしまうよ」

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 「ブオナ ノッテ」

 別れ際の紳士のしわがれ声が

 風に乗って 闇に舞った

 

 
 

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