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至高の傑作「ロレートの聖母」に逢うー聖アゴスティーノ教会

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 フランチェージ教会、ポポロ教会と連続して評判を得たカラヴァッジョは、すっかりローマ有数の人気画家になっていた。その頃発注されたのが、サンタゴスティーノ教会、カヴァレッティ礼拝堂を飾る絵画「ロレートの聖母」だった。北からローマに入ってくるフラミニア街道のローマの入り口がポポロ門、そこから真っ直ぐ南下してくると、ちょうど聖ゴスティアーノ教会のところで右に曲がってサンタンジェロ橋を通り、最終目的地のサン・ピエトロ大聖堂に達する。はるばるカトリックの総本山を目指して世界各地から訪れる人たちの巡礼路の最終ルート上に、この教会はあった。

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 右前には農民が額ずいて手を合わせている。長い旅を続けてきたのだろう、雨風にさらされた衣服は汚れ、男の裸足の足裏にはべったりと土が付いている。老婆(母親かもしれない)と共に信仰の思いを胸にこの場にたどり着き、目の前に現れた聖母子を仰ぎ見ている。

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 「聖と俗」という形で対比する見方がある。聖なるマリアと俗なる貧しい庶民。しかし、このマリアは決して「聖」の高みに上ってしまった姿ではない。その足もまた裸足。光輪が頭上に光っている以外は、まさに生身の女性そのものだ。しかし、俗のままで、俗を超えてしまった。

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 左上から差し込む光を受けて輝く横顔の美しさ、気高さはどうだ。あくまでも清楚でありながらも圧倒的な存在感に満ち、深い慈しみの眼差しを伴って、祈る母子に接する時、母子はそこに自らと同じ地平で心を開く聖なるもの、の姿を発見する。

 どんなに貧しい者の許にも聖母は分け隔てなく現れ、救いの手を差し伸べてくれるという究極の希望を、その絵に見い出すのではないだろうか。

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 ロレートとは、イタリア・アドリア海沿いにある町。キリストが住んでいた家が奇蹟によってナザレからこの地に運ばれたとされている。この絵は1604年に完成したが、カラヴァッジョはその年にロレートを訪れており、イメージを踏まえたうえで制作したと思われる。

 絵は、教会を入るとすぐ左端の礼拝堂にある。最初は暗くてよく見えなかったが、1ユーロの照明を点けると闇の中から聖母子の姿が鮮やかに浮かび上がった。息を殺してただただ、じっと見つめていることしか出来なかった。この絵に出会えたこと。それだけで、この旅は十分だった。

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 そんな驚異の絵を残したカラヴァッジョだったが、現実の世界においては、その作品からは全く想像できないような行動を繰り返していた。制作中は一心に集中してアトリエにこもるが、完成すると仲間を引き連れてローマを闊歩し、武器不法所持、暴行、公務執行妨害、傷害と、立て続けに事件を起こしては警察の厄介になっていた。

 そして1606年5月29日。ちょうど407年前の今日、4人対4人の乱闘の末に殺人事件を起こしてしまい、後に死刑判決を下される。これによってカラヴァッジョはローマから逃亡、その後はナポリ、マルタ、シチリアと流浪の旅を余儀なくされ、土地土地で鬼気迫る作品群を残して行った。

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 1610年、彼の才能を惜しむ有力者たちの助力で、恩赦の道が開かれようとしていた。そのため、4年ぶりにローマへ戻ろうとしていた矢先、トスカーナの海岸ポルトエルコレの街で熱病に侵され、あっけなく38年の生涯を閉じてしまった。あまりにも激しく、あまりにも無謀な人生ではあった。

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 聖アゴスティーノ教会には、他にも著名な作品がある。1512年に描かれたラファエロの「預言者イザヤ」。これは堂内の柱に描かれているので、注意していないと見逃してしまう。ただ、個人的には、あまりラファエロらしさが感じられなかった。

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 こちらは天井のクーポラに描かれた諸聖人の姿。

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 この天井画は非常に細かな描写で面白かった。

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 壁際にたたずむ尼僧。優しい表情で、癒される。

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 一方、出入り口横に置かれた聖母像はさっきの尼僧とは違ってどっしりと懐の深い趣をしていた。

 ローマでのカラヴァッジョの絵は、この他にもカピトリーナ絵画館、バチカン博物館、ボルゲーゼ美術館などあちこちにあり、すべてを見て回ろうとすると大変。ただ、今まで紹介した3つの教会だけでもその迫力は十分に感じることが出来るはずだ。

 

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