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「書を焼く者は人をも焼く」。ハイネの言葉が現実になった焚書事件・・・ベルリン㉓

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 ノイエヴァッヘから歩いていくとフンボルト大学正門前に差し掛かった。
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 路上で何人かが地面を指さしながら話している。近づいてみると、やはり以前紹介した「つまずきの石」だった。正門前にずらりと並んだつまずきの石。
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 この石は強制収容所で命を落としたユダヤ人の、もともとの住所に埋められているものだが、ここのプレートの主たちは多分、大学で研究したり学んだりしていた人たちのものなのだろう。
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 1例をアップしてみた。左のエルンストさんは、この地で学んでいたが一時オランダに逃走。ウェステルボルグの通過収容所を経由して1944年9月、テレシエンスタッド収容所、そしいてアウシュビッツ収容所に送られ、同年11月2日に殺害された。
 
 右のマンフレッドさんも同様の経過をたどって1945年2月28日に殺害されている。33歳と36歳というあまりにも短い生涯だった。
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 正門前では、恒例となった古本市が開かれていた 。
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 そこから、ウンター・デン・リンデンを横切って南側にあるベーベル広場に入った。ここには、ほとんど目立たないが重要な記念碑がある。
 
 ナチスの時代における知的財産破壊の象徴とされる事件が、ここで起こっていた。
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 1933年5月10日夜、ヒトラーが政権を握ったその年、ナチスに扇動された学生たちがこの広場に集まり、「享楽的、堕落的な作家たちをドイツから追放せよ」と叫びながら、多数の書物を投げ捨て、そこに火を放った。
 
 シラー、トーマス・マン、アインシュタインなどドイツを代表する人たちの著作が炎の中で灰になっていった。
 
 ちょうどこの広場は大学図書館と隣接しており、そこからも多数の書籍が投げすてられた。その数2万5千冊ともいわれる。
 
 この焚書事件をきっかけにナチスの一方的な文化抑圧が進み、差別の極致としてのユダヤ人虐殺へと進んでいく。
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 その現場に2枚のプレートが置かれている。
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 1枚には「この広場の中央で、1933年5月10日に国家社会主義の学生たちが何百人もの自由な作家、ジャーナリスト、哲学者、科学者の著書を焼いた」と記されている。
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 また、もう1枚にはこんな言葉が刻まれる。
 
 
「これは序曲に過ぎなかった。書を焼く者は、人をも焼いてしまう者である」
 
 ハインリッヒ・ハイネの言葉だ。と言っても、1933年に書かれたものではない。1世紀以上も前の1820年当時、ヴァルトヴルグの祭典で書物が焼かれた時に記されたものだ。
 
 その言葉が、100年もの時を超えて起きたことを、実に的確に言い当ててしまっているのだ。戦慄さえ覚える。
 
 ハイネもユダヤ人。哀しくも同胞の悲劇を予言したこの言葉が、今もベーベル広場の一角に刻まれている。
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 もう1つ、地面にガラス板がはめ込まれた場所がある。これは芸術家ミハ・ウルマンによる「地中の図書館」だ。
 
 地下の空間には、空っぽの書棚。ナチスによって生じてしまった知的空白を象徴する作品だ。ただ、晴天で外があまりにも明るすぎて、中がほとんど見えなかった。
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 こんな目立たない記念碑だったが、いくつものグループが自転車や徒歩などで、ガイドに導かれて見学に訪れていた。地元ガイドが率先してこうした場所を巡るツアーを企画しているとのこと。
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 いわば、自らの国の恥ともいえる歴史を、積極的に知らしめる努力を続けているわけだ。その態度には頭が下がる思いだった。
 
 
 
 

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ドイツ・ベルリン」カテゴリの記事

コメント

gloriosaさん、こんばんは。

ドイツの訪問では否応なしに戦争の記憶が蘇りますね。

「書を焼く者は人をも焼く」・・・本当にそうだと思います。書を焼くとは人間の知性を焼くことですね。私達人類が知性をなくしたら動物以下の生物になってしまうのではないでしょうか。

ISなどが遺跡などを破壊しているのを見るにつけ、彼ら自身を破壊する行動ではないかと感じます。

今後も人間が知性を持って歩み続けて欲しいと祈っています。

投稿: omoromachi | 2016年4月 7日 (木) 23時04分

omoromachi様

 本当に、ベルリンの街を歩いていると否応なしに負の歴史と向き合わざるを得なくなります。
 また、ドイツという国はそれを隠すのではなく、逆に常に記憶に留めておこうという努力をしているように思います。
 そうでなくとも、まさにISのように「人を焼く」ことを平気でする集団が、しばしば姿を現しますからね。

投稿: gloriosa | 2016年4月 8日 (金) 21時15分

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