サンタンジェロ橋と10人の天使たち
サンタンジェロ橋は見事にピクチャレスクな橋だ。サンタンジェロ城に向かって、橋の両側に10体の天使像がずらりと並ぶ。そのどの像もそれぞれに美しい姿で我々を迎えてくれる。
よく見るとその像が皆いろいろな物を持っている。実はそれらのものがすべてキリストの受難と関係するものであることを、最近知った。
例えば一番わかりやすいのは十字架。まさにキリストはこれに磔になった。
十字架にキリストを固定した釘。
突き刺した槍など、いずれもキリストに苦しみを与えた道具だ。
制作を企画実行したベルニーニは、なぜことさらに重い思い出の品々をこの橋に並べようと思ったのだろうか。
それはまさに、この橋のある位置関係が大きな要因になっている。サンタンジェロ橋は、城と同時期に造られた。ただし、ルネサンス時代になっても教皇庁のあるヴァティカンとローマとを隔てるテヴェレ川に架かる橋はこれ1つだった。
従って、キリスト教の総本山であるサンピエトロ大聖堂を訪れるためには必ずこの橋を渡らねばならない。
それも、巡礼者たちはイタリアだけでなくヨーロッパ各地から長い長い旅をしてようやくたどり着く。疲れた体、でもやっと到着したのだという安堵感を伴って橋を渡り始める巡礼者たちを、この彫像群が出迎えてくれる。彼らは感激の気持ちで像を見上げるだろう。
長い時間をかけてここまで巡礼してきた信者たちだけに、必ず天使たちの持つ受難の道具に気付く。私たちに代わって計り知れぬ苦難を背負ってくれたキリストの生涯を改めて思い起こし、最終目的地の大聖堂に、心新たに詣でるという、壮大な演出を、ベルニーニと依頼主の法王クレメンス9世は、ここで仕掛けていた、というわけだ。
また、天使たちは太陽の移動に伴って様々に表情を変化させる。朝日を浴びた時の像は清々しく見える。
同じ像でも、夕方逆光でシルエットになれば、神秘的な姿に変身する。
それは、城との関係においても同様だ。昼は光を浴びた像が白く輝き、背景の城のブラウンが白さを引き立てる。
だが、夜になるとライトアップされた城の大きさを、シルエットになった像たちが引き立てているように見える。これもベルニーニのはかりごと?
10体の天使像のうち8体はベルニーニ工房の作で、ベルニーニ自身の作品は2体だけ。それも本物は別の場所に保管されており、橋にはレプリカが設置されている。
本物のあるサンタ・マリア・デッレ・フラッテ教会に行ってきた。こちらは上書き書を持つ天使。
そして荊の冠を持つ天使。いずれも教会の主祭壇両脇に置かれていた。本物の迫力はさすがだったが、サンタンジェロ橋という環境に置かれた天使たちの美しさもまた、忘れ難いものだった。
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