ウイーン・建築

ウイーン 美しきランタン小路からドナウ運河へ

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 美術関係の話から、街歩きに戻ろう。シュテファン大聖堂の北側、ベッカー通りには、活版印刷術の発明で有名なグーテンベルグの像が建っている。彼はドイツ人で、ウイーン出身でもないが、この界隈には印刷所が多くあったことからこの像が造られたといわれている。ここから通りを東に進む。

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 途中、右に折れると皿より大きなウインナ・シュニッツェルを提供することで有名なレストラン「フィグルミュラー」の店がある。

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 食の誘惑に負けずにまっすぐ進むと、左手にあるのがイエズス会の大きな教会。イエズス会は反宗教改革の先鋒として豪華な教会建築で人心を引き留ようとしたことでも知られる。ローマのジェズ教会などはバロックの豪華建築の代表だ。

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 その例にもれず、この教会も豪華。

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 この天井は実は平面。いかにもクーポラがあるようなだまし絵のフレスコ画になっていた。

 その先辺りからシェーンラテルン小路が始まる。

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 道なりにカーブして行くと、怪物バジリスケンの看板がみつかる。バジリスケンとは、雄鶏とヒキガエルの子供で、一睨みで生き物を殺してしまうという伝説上の怪物だ。人々はこの怪物に苦しめられていたが、ある日、勇敢で頭の良いパン職人が、大きな鏡を持ってバジリスケンに立ち向かった。バジリスケンはその鏡で己の姿を見た瞬間、にらんでしまい、自らが死んでしまったという。その怪物の名前を付けたレストランだ。

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 すぐ向かいにポツンと一つの街灯が壁に取り付けられている。これが小路の名前の由来となったランタン。シェーンラレルンとは、美しいランタンの意味。昼はどう見ても美しいというほどではない。でも、夕方灯がともる頃には情緒たっぷりの小路になるのだろう。

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 斜め向かいのピンクの建物2階付近に銘板を見つけた。「シューマンがここに半年住んでいた」と書いてある。

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 すぐ近くの壁画も美しい。

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 また、こんなカギの看板も。「アルテ・シュミーデ」という鍛冶工房だ。

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 さらに北上すると、バグパイプを吹く男の看板が見つかる。この男はアウグスティン。17世紀のペスト大流行時期に、酔ってペストの墓穴に落ちたが、翌朝何事もなく生還して伝説の男になった。

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 そんな看板を掲げた店「グリーヒェンバイスル」のある通りは、ゴシック風な趣のある小路になっている。

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 こんな双頭の鷲の看板も。

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 そのすぐ先には、オットー・ワーグナーのモダンデザインで知られる郵便貯金局がある。

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 業務中なので、そっと少しだけ写真を撮らせてもらった。ガラスの天井に、アルミをふんだんに使ったしゃれた意匠。1912年当時の超モダン建築だ。

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 裏手から通りに出ると、すぐそこはドナウ運河だ。ドナウ川の本流はさらに2キロほど北東側を流れており、旧市街に接する運河は洪水などを制御しやすくするために造られたものだ。

 ドイツに源を発したドナウ川は、オーストリアを横断した後ハンガリー平原を蛇行しながら南下。ベオグラードやブカレスト付近を経由して黒海に注ぐ。つまり、ヨーロッパ内陸の主要国を貫いて、水運の重要航路として機能してきた。「文明の生成は異なる文化の遭遇によって触発されるものだ」(アーノルド・トインビー)との指摘の通りに、ハプスブルクの百花繚乱は、ヨーロッパのゲルマン、スラヴ、ラテンの三大文化が、ドナウを介して相互に触発され、融合された結果生み出されたものなのだろう。

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 新装オープンした船着き場からは、ブダペストやブラチスラヴァへの定期船が当たり前のように運行されていた。

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クリムトを追って 3  分離派会館、ベルヴェデーレ宮殿

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 クリムトら若い芸術家が既成の芸術界に飽き足らず、新たな芸術運動を起こそうと建設した「分離派」の拠点「分離派会館」を訪ねた。

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 「時代には時代の芸術を 芸術にはその自由を」。あまりにも有名な言葉が記された“黄金の玉ねぎ”の建物は地下鉄カールスプラッツ駅近くにあった。建物の設計はヨーゼフ・マリア・オルブリヒ。

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 たまたまこの日は閉館してしまっていたので、壁面観察を始めた。まず目につくのは、内部にある「ベートーベンフリーズ」にも登場するゴルゴン3姉妹の顔。3人の髪の束から3匹の蛇がとぐろを巻いている。

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 その下側には下向きになったトカゲが2匹。

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 入口の両脇に据えられた大きな甕を支える4匹ずつ、計8匹のカメもいる。

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 側面に回って見る。アールヌーボーの植物の茎と葉が流れるように描かれた壁の、奥の棟の壁面に、何かいる。

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 フクロウだ。3匹1セットのフクロウ君たちが、両側面合わせて4組、12匹が浮き彫りになっていた。

 つまり、この建物の側面だけで25匹もの動物がうごめいている勘定になる。こんな遊び心満載の建物であることに、今回初めて気付いた。

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 「時代には・・・」の言葉の他にも、正面の壁に「VER SACRUM(聖なる春)」の文字がある。これは1898年の会館建設と同じ年に発行開始した機関誌の題名でもある。

 実はこの1898年は、あの皇妃エリザベートがスイスで無政府主義者によって暗殺された年でもあった。まさに、世紀末の不穏な空気が漂う真っただ中でのスタートだった。

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 別の日、ベルヴェデーレ宮殿に行った。ここの上宮はオーストリア・ギャラリーとして19・20世紀美術館になっている。

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 ここを最初に訪れたのは11年前になる。開館と同時に入館し、一目散にクリムトの部屋に進んだ。その時ちょうど、係員が窓のカーテンを開いた。夏の日がすっと室内に差し込み、窓と平行に飾られていた「アデーレ・ブロッホ・バウアーの肖像1」を照らしだした。金と銀とで仕上げられた彼女の服の、特に銀の部分がキラキラと白く輝き出し、日差しの及ぶ個所が次々とさざ波のようにきらめいたことを、まるで昨日のように思い出した。

 その作品は、今はもうこの美術館にはない。ナチスに没収された絵画の、旧持ち主への返還措置が決定され、いろいろな経緯を経て、今ははるかニューヨークのノイエギャラリーに移されてしまった。

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 しかし、クリムトの代表作「接吻」は健在だ。圧倒的な存在感と孤独感。相矛盾するような2つの感覚が、頭の中で渦巻いている。顔の精緻な描写と、パターン化した服装の文様、花園の楽園か崖っぷちの死の淵か。いくつもの対照を絵の中にはらみながら絢爛たる瞬間をつきつけるこの絵は、やはり特別な存在なのだろう。

 正面に立って見つめた後、細かな描写を確かめようと少し前に寄った。その時、男のまとった衣装の金がきらめいた。頭上の照明が、ちょうど絵のゴールドの光沢を輝かせる角度に入ったのだろう。100年前の、クリムトがカンパスに塗りこんだばかりの金の光を、直に体験したような錯覚を味わうことが出来たのだった。

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 また、11年前にウイーンでポスターを買い、ずっと自宅に飾っておいた「アッター湖畔の並木道」の実物にも再会できた。クリムトには珍しい、ゴッホ張りの骨太なタッチで描かれた風景画。こんなクリムトも好きだ。

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 ハプスブルクの将軍オイゲン公が建築家ヒルデブラントに依頼して建設したベルヴェデーレ宮殿の庭には、スフィンクスのような彫刻が置かれ、遠くにはシュテファン大聖堂が見える。クリムトの絵で圧倒された後、しばし休息をとるのにちょうどよい場所だった。

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ウイーン世紀末建築の精華 アム・シュタインホーフ教会・下

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 教会のステンドグラスを見てみよう。ワーグナーと同時代の作家コロマン(コーロ)・モーザーの傑作だ。祭壇に向かって左手(西側)が個人的には大のお気に入りになってしまった。

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 光線の加減で影になってしまった部分もあるが、全体的にコントラストの強いはっきりした線で描かれている。

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 上部の半円は聖ヴェロニカの聖骸布を2人の天使が向き合って広げている構図。天使の、クジャクの羽根のような色どり、デザインが素晴らしい。窓枠に沿って天使の羽根が描くアーチもまた優雅。P3054721_2

 下部に描かれる聖人たちもみな個性的だ。この辺は中世からバロックにかけて製作されたステンドグラスとは一味違っている。

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 一番右端の老聖人など、ちょっとユーモラスな表情で親しみやすい。

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 手前のシャンデリアとのコラボ。

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 傾きかけた西日が当たり始めて、ステンドグラス越しの日差しが壁に光の粒を写していた。

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 一番左側の縦長のステンドグラス。6人の若者の表情が微妙に違っている。

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 こちらは右側のステンドグラス。構図は似ているが、異なった人物像が並ぶ。上部の2人の天使は鳩を抱えている。光線の具合か、淡い色調に見えた。

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 天井には四方に細長い長方形の仕切りが入り、青と白ですっきりと仕上げている。

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 さらに、後方の窓にも横長のグラスがはめ込まれていた。元々は正面の祭壇画もモーザーが手掛けることになっていたのだが、ステンドグラス終了後に彼はプロテスタントの女性と結婚してしまったため、カトリックの教会にはふさわしくないとのことで外されたのだそうだ。

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 さきほどシルエットで紹介したシャンデリアはこんな風。ブドウの房のような面白い形をしていた。

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 教会のいわれなどについてのレクチャーが約1時間。ドイツ語の分からない者としては少々長い時間だったが、その途中で主祭壇の天蓋のライトが点灯された。

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 祭壇内部がくっきりと浮かび上がって・・・。

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 神秘的な空間が出来上がった。

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 この演出は、ちょっと感動的な瞬間を造り出してくれた。

 この日は暖かかったが、通常の冬は冷えるのだろう、ちゃんと毛布が用意されていた。ツアー料金は8ユーロに値上げされていたが、やはり一度は、ユーゲント・シュテールが生んだ可憐な花のようなこの空間を見る価値があると思う。

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ウイーン世紀末建築の精華 アム・シュタインホーフ教会・中 

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 アム・シュタインホーフ教会の中に入った。まずは白を基調とした内部空間の清々しさに、心が洗われるような気になった。バロックで彩られたシュテファン大聖堂とは対照的な教会だ。

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 中央祭壇の壁にはキリストと聖人たちの絵が描かれている。

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 中央で両手を広げて信者に祝福を与えるキリスト像は、威厳に満ちた表情。

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 向かって左の列に7人の聖人たち。

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 右側の列には8人。この数だと、12聖人を表現しているのではないらしい。

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 その手前には金の祭壇がある。通常ヨーロッパの教会は主祭壇が聖地エルサレムの方向になるように東に設置され、入口は西になるのだが、ここの場合は精神を病んだ患者がまともに光を浴びないようにと配慮して、祭壇を北にしたため、入口が南にあるという変則構造になっている。

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 天蓋は銅製に金メッキが施された。よく見ると全面に白い天使の顔が張り付けられている。

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 天蓋の下には祈りを捧げる少女は左右に2人。あどけなさを感じるような無垢な表情が美しい。

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 こちらは右側の少女。

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 3月初旬の午後3時過ぎ、太陽光線が斜めから差し込むため、少女たちの白い衣服が反射して銀色に輝いていた。

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 祭壇横の絵は、カギをもっているところから、聖ペトロらしい。

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主祭壇横の壁にも2つ絵が描かれている。向かって左側は「受胎告知」。

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 右側はタイトル不明。大きな翼は玄関上にある天使の翼にも共通しているようだ。

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 もう一度主祭壇周辺の全景を。これが、ライトアップされるとまた違った雰囲気に変化する。それは次回に。

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ウイーン世紀末建築の精華 アム・シュタインホーフ教会上

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 土曜の午後、ウイーン郊外にあるアム・シュタインホーフ教会に出かけた。この教会はウイーン世紀末建築の第一人者オットー・ワーグナーの代表作。今回の旅で絶対見たいと思っていた建築だ。土曜日午後のガイドツアーでしか一般公開はしていないので、前回の旅では日程が合わず入れなかった場所だった。地下鉄U2のフォルクステアター駅から48Aのバスで行くのだが、駅のすぐそばにある48A停留所は、教会と反対側の市中心部方向に行くための停留所だった。焼き栗を売っていたおじさんに聞くと、郊外方向に行くのはもう一つ西側の通りに設定されていることがわかった。バスで約30分、終点一つ手前のpsychiatrisches krankenhaus停留所で下車。この辺りまで来ると右前方に金色のドームが見えてくる。

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 停留所横の精神病院の正門から入って行く。この教会は精神病院の患者たちのために造られたものなので、病院敷地の中にある。上り坂を上って行くと、右前方にドーム屋根の全容が現れる。一気に教会前まで行ってしまうと近すぎて建物の屋根から上が見えなくなってしまうので、手前の十字路を右に入って、並木の切れ目で立ち止まると、全景がすっぽりと見えるスポットがある。そこで一息。

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 1905-7年に建築されたが、100年の歳月でドームを覆っていた金メッキがはがれ、しばらくは緑の屋根になっていた。それを2006年に修復し、今では黄金の輝きが復活した。

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 ドームの向かって右側に居るのは聖レオポルド。左手にこの教会の模型を持っている。

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 左側が聖エヴェリン。いずれも守護聖人だ。こちらが持っているのは杖。

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 正面玄関前に到着した。少しベンチに座ったりしながらガイドツアーの開始を待った。玄関の上部分には4体の天使像がある。シムコヴィッツ作。

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 この天使たちは大きな羽根を持ち、凛々しい立ち姿だ。

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 横に回り込むと、そのシルエットが青空とシンクロして美しい。

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 壁に映った影は、ルーブル美術館にあるサモトラケのニケを連想させる。

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 ちょうど陽の光が金色の翼に反射して眩しいくらいだった。

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 壁に刻んだ十字架や円形の装飾も金色に輝く。

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 正面の窓ガラスに描かれた白髪の老人はやはり聖レオポルドだろうか?

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 脇で手を合わせて祈る女性もかなり個性的表情だ。ツアー開始5分前になり、ツアー参加者も続々集まってきて、教会係員が扉を開いた。いよいよ入場開始だ。

 

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ウイーン 夜の中心街を歩く

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 リンク通りに出て少し歩くと、右前方にオペラ座が見えてきた。前日にオペラ座舞踏会が開かれたばかり。玄関前には後片付けのためかクレーンも置いてあった。

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 絶え間なく走る車の合間を縫ってトラム停留所付近でオペラ座の夜景を撮影した。さすがに華やかな雰囲気があふれている。写真の下側で流れている光の線は車のライトだ。

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 さらに西に向かって歩き、美術史美術館の前で右に曲がって王宮の敷地に入って見た。王宮広場からは、市庁舎が程良い遠さで闇に浮かび上がっていた。

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 カール大公騎馬像と市庁舎とのツーショット。

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 王宮の建物をくぐって正面に回った。さすがに威風堂々と言った感じ。

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 王宮を背にして正面を見ると、ロースハウスが建つ。アドルフ・ロースは「装飾は犯罪だ」と徹底して飾りを排した建築を追求した。当時は「あんな武骨なものを王宮のまん前に造るとはけしからん」と非難の声が巻き起こり、4階以上の窓の部分に花飾りを置くことでようやく決着がついたという、曰く付きの建築だ。夜でわかりにくいが確かに4階窓部分には花飾り用の出っ張りが付いている。今では違和感なく存在しているように見える。

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 ここからコールマルクト、グラーベン通りと繁華街に入って行く。

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 途中、シャネルの店のショーウインドウを見つけた。ライオンを背に2人の赤毛のマネキンというデザインは数日前にヴェネツィアでみかけたのと同じだ。

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 こちらがヴェネツィア・シャネルのショーウインドウ。基本は同じでも微妙に展示の仕方が違っていて、面白い。

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 グラーベン通り中央には、ペスト記念塔が建っている。17世紀ウイーンでも6万人もの死者を出したペストの終焉を記念して、建設された。この付近ではあちこちから音楽が聞こえてくることが多い。街頭演奏をする市民音楽家たちだ。この夜はバリトンサックスでクラシックを演奏する若者に出会った。

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 ケルントナー通りに出ると、シュテファン大聖堂がその偉容を現す。改めてその大きさに感動。

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 新装開店したスワロフスキーのショーウインドウでは、赤いドレスのマネキンがダンスをしていた。これも舞踏会に合わせたショウアップなのだろう。

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 レストランに向かおうとした時、金髪の女性が広場のベンチに座ってなにやら物思いにふけっているのが目に入った。

 ある著名な作家は「ウイーンは女の匂い」と書いた。街角に溶け込む女性の後ろ姿からほのかなウイーンの香りが匂い立つような、早春の夜のひとときだった。

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ウイーン散歩 カールスプラッツ、カールス教会、楽友協会

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 夕方、地下鉄に乗ってカールスプラッツに出かけた。

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 駅に降りると、まさにそのカールスプラッツ駅に、オットー・ワーグナーの傑作の一つであるカールスプラッツ駅舎があった。2つに分かれた駅舎のうち1つはカフェとして利用されていたが、博物館になっている方は冬季は閉鎖されており、内部は見ることが出来なかった。

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 それでも、金色の屋根のアーチやアールヌーボーの装飾などのしゃれた外観は楽しむことが出来た。

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 前面の窓ガラスには、これから行こうとしていたカールス教会の特徴的な姿が映っていた。

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 そのカールス教会は、広場の反対側にそびえていた。ハプスブルクの女帝マリア・テレジアの父カール6世が、ペストの鎮静を願って建設を命じたバロックの大教会だ。

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 正面に向かうと、入口両側にそそり立つ大円柱が際立って見える。

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 ローマのトラヤヌス帝記念柱を手本にしたのだという。大人が数人で手を広げなければ届かないほどの太さだ。

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 そこに細かい彫刻が施されている。

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 教会内部はもう閉まっていたので、外観のライトアップを撮ろうと待ったが、一向に明るくなる気配がない。今夜開かれるという教会コンサートの係員にライトアップはするのかと聞いてみたが、彼らはわからないという答え。仕方がない、帰ろうか。

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 公園を横切ってリンク通りに行く途中に楽友教会の建物を見つけた。ここはウイーンフィルの本拠地。毎年元旦に行われるニューイヤーコンサートは日本にも衛星中継されるのでおなじみの場所だ。赤を基調とした、どっしりと趣のある建築だ。

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 何気なく振り向いたら、あら、カールス教会がうっすらと明るくなっている。あわてて戻った。

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 雲一つない晴天の夜空が澄み切った濃いブルーになって行き、美しい風景に出会うことが出来た。

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 楽友協会もライトアップされた。周囲からワルツが流れだしてくるようなうきうきする夜景だった。ここから、さらにリンク周辺の夜景を見に足を伸ばそう。

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ウイーン アルプス山脈の終着地、マジョリカハウス

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 南フランスのニースに行ったのは3年前の冬だった。トリノから山越えの路線があったので電車に乗ったら、豪雪のため途中でストップ、結局ジェノヴァから海沿いに迂回してようやく行き着いた。ニースはアルプス山脈の麓の町なのだ、と実感したのがその時だった。

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 アルプスは、コート・ダ・ジュールの海岸付近から徐々に高度を増して北に進み、4807mのモンブランで方角を変えて東に向かい、スイス・チロルを貫く。そしてなだらかな丘へと姿を変えながらウイーンの森に入り、ドナウ川に沈みこんで終点を迎える。その数千キロにわたるアルプスの東端にウイーンは位置している。せっかく一方の端のニースの経験があるのだから、もう一方の端にも足跡を残そうと、ウイーンの森の高台・カーレンベルグに出かけた。

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 市内から地下鉄U4に乗ってハイリゲンシュタットまで行く。この駅前に建つ異常に長い建物は、1929年の労働者用集合住宅だ。全長1キロもあり、託児所や病院も付属した「赤いウイーン」当時の最先端建築だった。

 そこから38Aのバスに乗り換える。合計1時間もあればカーレンベルグに到着する。

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 到着したとき、付近の林は霧氷となって枝先を白く輝かせていた。さすがに高台は市内とは温度がだいぶ違う。

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 全く冬のたたずまいだ。でもこんな白い樹林を見ることが出来たのも良い思い出になるだろう。

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 雲一つない抜けるような青空。林の中の民家とのコントラストも素晴らしかった。さあ、アルプスが吸い込まれるドナウの風景を見てみよう。

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 が、見えない。何と下界には濃い霧が立ち込めていた!せっかくなので本来なら絶景が見えるはずの、カフェの端の席に座ってメランジェを飲みながら1時間ほど待った。

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 しかし、ほとんど霧は晴れてくれない。仕方なしに、霧さえなければ見えたであろうパノラマを頭で想像しながら、この地を後にしたのだった。

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 帰りは一気にリンクの南側まで移動した。ケッテンブルッケンガッセ駅を出ると、目の前にオットー・ワーグナーの代表的集合住宅2棟がどんと現れる。右からメダリオンハウスとマジョリカハウスだ。

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 マジョリカハウスは壁面一杯にあふれるほどの花模様が描かれている。マジョリカ焼きのタイルを張り付けたものだ。100年も前の建築だが、全く古さを感じさせない華やかさ。タイルなので色がはげないのもメリット。

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 たまたまドアが開いていたので、入口にあるエレベーターも垣間見ることが出来た。ゴージャスな雰囲気だ。

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 隣のアパートはコロマン・モーザーの手になる金細工のメダルが9つはめ込まれている。ウイーンの金といえばクリムトの絵画が思い浮かぶが、いずれも同時代に活躍した芸術家だけに、相互に影響し合っていたのだろう。

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 金細工のメダルに描かれた人物像を眺めていたら、9つがそれぞれに微妙に違った表情をしていることに気付いた。これは向かって左から2番目。上向きで、今風にいえばドヤ顔の男性?

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 4番目は真横を向いた澄まし顔の女性?

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 7番目はうつむき加減の、こちらは完全にうら若い少女の横顔。角度と表情の違いを見ているだけでも結構楽しい時間を過ごすことが出来た。

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2つの建物のつなぎ目には、道路に向かって何かを叫ぶ人物像も。屋根上の人物像は、オットー・ワーグナーの別の建物・郵便貯金局にもあった。マジョリカハウスの1階に、日本語で「くいしんぼ」と書かれた看板をみつけた。何かと近づいてみると日本の田舎の町にある食堂のような小さな店だった。そこで、今回の旅で初めて日本食(といってもカレーライス)を食べた。思えば、外国でカレーライスを食べたのは完全にここが初めて。うまかった!

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ウイーン街歩き  カフェ、現代建築

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 夜行列車が到着したのはウイーン西駅。改修の進む近代的な駅舎には、とても明るい日差しが差し込んでいる。冬の陰鬱さを引きずった、重苦しいハプスブルクの残滓を思い描いていた私の先入観を、一気に吹き飛ばす陽光だった。

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 地下鉄とトラムを乗り継いでホテル近くの停留所に降り立ったが、まだまだチェックインタイムには早すぎる。そこで市庁舎近くのカフェ・スルッカで時間をつぶすことにした。

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 ウイーンのカフェは伝統を誇る。アインシュペンナーを注文すると、やはりちゃんとスプーン、水の付いたセットで、貫録十分のマダムが運んでくれた。決して広くはないが、朝の新鮮な光の粒子がこぼれる室内に、コーヒーの香りが立ち昇る。なんとも贅沢な時間だ。

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 ようやくチェックインを済ませ、さっとシャワーを浴びてから中心部の散策に出かけた。王宮近くのコールマルクトを歩いていると、道路左側に変わったデザインの店を見つけた。現代建築のハンス・ホラインが手掛けたものだ。完成当時は蝋燭店だったらしいが、今では高級宝飾店になっている。

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 彼の作品で最も刺激的なファザードを持つのは、この先のグラーベン通りの宝石店だ。

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 亀裂の入ったようなショッキングなデザインが、とても面白い。

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 彼の作品で最も有名なのが、シュテファン大聖堂前のガラスビル「ハースハウス」。「大聖堂前なのに、なんという違和感のある建物か」と論議を呼んだが、今では定着しているようにも思える。

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 コールマルクトに戻ろう。ここには王室御用達のドルチェの店「デーメル」が店を構える。

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 ここのショーウインドウは時期に合わせて工夫を凝らすので有名だ。覗いてみると何やら王冠が。

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 その隣ではダンスをする人形が並んでいた。この日は翌日に控えた王室公認のオペラ座舞踏会に合わせてのショーアップがなされたいたというわけだ。

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 なお、こことトルテの本家争いをしたことでも有名な「ザッハー」は、オペラ座の裏手に立派な店を構えている。

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 カフェついでにもう一つのカフェを紹介しよう。「ツェントラル」は、デーメルから200mほど北西側にある宮殿のビルの1階にある。

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 高い天井と豪華な内装は文学カフェとしての伝統をそのまま残している。入口に座る人形は、常連だった作家ペーター・アルテンベルク。彼は自分の住所を「ウイーン1区 カフェツェントラル」と称していたという。

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 シュニッツラー、フロイト、亡命中のトロツキーなどもここに出入りしていたという。第二次政界大戦後一時閉鎖されたが1980年代に復活した。こういう場所でゆったりと時間を過ごす贅沢をするというのも、旅の楽しみの一つだ。

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