サロメとショパンの手 ギュスターヴ・モロー美術館とパリ市立ロマン主義美術館
オペラ座から北に向かって10分も歩けば、ロシュフーコー通りの右側にギュスターヴ・モロー美術館があります。象徴主義の旗手、神秘的な絵画で知られる世紀末の画家です。
この建物はモローが1898年に死去するまでここに住み、死後はその作品と共に国に寄贈されました。これを受けてフランス政府は5年後、国立としては初めての個人美術館として開館したものです。
美術館の目玉は、この「出現」。中央に出現した光り輝く首は洗礼者ヨハネ。それを指差すのはサロメです。
物語をおさらいすると、紀元前の世界に溯ります。時の王、ヘロデ王はある催しの席で自分の2番目の妻の連れ子・サロメの踊りを鑑賞します。その美しい舞いに対して「何でもお前の好きなものをプレゼントしよう」と話します。サロメは母ヘロデヤと何事か話した後、「ヨハネの首が欲しい」と申し出ました。王はあまり気が進まなかったが、一旦言い出した以上後に引けず、ヨハネを殺してしまうという、新約聖書に掲載されている物語です。サロメ悪女説の源となっている話ですね。
しかし、本当の悪女はサロメではなく、母親のヘロデヤなんですね。ヘロデヤは別の男性と結婚していました。しかし、その男性の出世の見込みが薄いとわかるや、ヘロデ王に言い寄り、不倫の末王にも離婚させて王女の地位に収まりました。それに対してヨハネは「よくないことだ」と厳しく批判します。ヨハネとは、キリストに洗礼を施した高僧で、民衆の支持も集めていました。かねがねヨハネを疎ましく感じていたヘロデヤは、サロメの踊りに対する報奨の話が出た時、サロメに「ヨハネの首をもらいなさい」とそそのかしたのです。
まあ、そんな運命を背負わされたサロメとヨハネの“出会い”を、象徴的に描いた作品ですね。
この美術館のもう一つの見どころは、階段。3階から4階に通じる階段ですが、この見事な螺旋模様は必見です。
しかも、周りを絵画に囲まれており、作品の一部とさえ見えてしまいます。
それもそのはず、モロー自身が注文して造らせたものです。
階段を上る途中で横の壁に架かる絵を撮ったものです。モローは「目に見えるもの、手に触れられるものは信じない。心に感じられるものだけを信じます」と語り、神話や聖書の題材からセレクトしたテーマを描き続けました。
ここは書斎兼寝室。オープン当初は非公開の場所でしたが、開館100年を機に最近になって公開されました。ちょっと狭いスペースに見えますよね。
同じような部屋ですが、こちらは全く違う建物の内部です。モロー美術館から数分北へ行くと、市立ロマン主義美術館という建物があります。19世紀の画家アリ・シェフェールが住んでいた建物。ロマン主義の人たちのサロン的な場所となっており、ヴィクトル・ユゴー、リストなどが出入りしていたそうです。特に親交のあったジョルジュ・サンドのゆかりの品が多くコレクションされています。この部屋の鏡にもサンドの肖像画がかかっていますね。
サンドといえばショパン。ここにはショパンの石膏の手形が陳列されています。思ったより小さめな手です。
それと比べると、上にあるサンドの腕のほうが心なしか逞しく思えてしまいます。男勝りの才女というイメージが強いからでしょうか。
屋敷の主であるシェフェールの作品もご覧下さい。彼が絵を教えていたオルレアン家の子息と結婚したジョインヴィッレ夫人。
マダム・ソフィーの肖像画。上の絵と同じ人かと思いましたが、パンフレットを見ると、別人とのこと。
この美術館の良いところは、まず入場料が無料であること。入り口で入場券を発行してもらう必要がありますが、金は掛かりません。次に、中心地から近いのに、とても静かな環境にあること。さらに、庭にはカフェが開設されており、ゆったりと時間を過ごすことが出来ます。と、書いていながら、私の行った日にはこんな家族連れが席を占領してしまっており、とても賑やかでした。そんな日もあります。
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