フランス・シャルトル

噴水、豪雨、朝露ーシャルトル散歩

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 シャルトルの駅近く、大きな広場には噴水が設置されていた。

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 リズミカルに水を噴き出して、いかにも涼しげ。

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 その前を、地元のちょい悪お姉さんたち(失礼!)が、さっそうと通りかかった。

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 午後、大聖堂横に出ていた古本市を見に行った。本だけでなくハリウッドスターのブロマイドなども。

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 急に雨が降り出した。急いで家路に向かう子供たち。

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 こちらの家族は濡れるのを覚悟でゆったりと。

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 大聖堂も雨に煙っている。

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 ようやく雨が上がった。お父さんは娘を肩車して散歩の再開。

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 旅立ちの朝、大聖堂前に行くと、朝露に濡れた植物群が出迎えてくれた。

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 柔らかな水玉が、まるで涙の粒のようにぽとりと地面に落ちた。

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 これらの草花たちも、数えきれないほどの世代交代を繰り返しながら、シャルトルの栄枯盛衰を見つめてきたのだろう。

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 そんな歴史を思い出させる朝

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 しっとりとした瞬間を味あわせてくれた。

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 「いつかまた」。再訪を胸に誓いながらシャルトルの街を後にした。

























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優しいマリア彫像も・内陣障壁の彫像群ーシャルトル大聖堂⑬

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 周歩廊北側の内陣障壁(聖歌隊席の仕切り)には、聖母マリアとキリストの生涯が41の場面に分かれて彫像群で描写されている。

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 みんな一定水準以上のしっかりした像たちだ。ただ、1つ1つに説明がないので、どの場面を描いているのかが判断が難しい。

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 これは優しい母子の像。幼子キリストと母マリアかも。そうなら、もう一人の子供はヨハネになる。

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 赤子を抱き上げる男たち。東方三博士たち?

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 これだけは参考資料を見つけた。「マギの礼拝」の1場面。マギとは東方三博士のことで、前のシーンと連続しているのかも。

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 その中で、やさしくふくよかな表情の女性が聖母マリアだ。聖母マリアは、聖書の中では受胎告知の場面などほんのわずかしか登場しない。従って5世紀以前の資料では具体的な描写がほとんど見られないという。

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 しかし、ある時期から次第にしばしば登場するようになってくる。それも、11~12世紀にかけてのロマネスク期では、黒い聖母像に見られるように、厳格な姿が多かった。

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 しかし、ゴシックの時代になると、優しく柔和な表情を湛えた聖母像が中心となってくる。

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 ゴシックは、大らかで包む込んでくれる救いの聖母として、マリアがキリスト教のイメージアップに大きく貢献をした時代だった。

 このころに造られたフランスの大聖堂は、パリ、アミアン、ランス、シャルトル、ルーアンなど大半がノートルダム(我らが母)大聖堂と名付けられて、聖母マリアに捧げられる教会となっていったことも、その時代を反映しているようだ。

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 ここには首のない像。パリのモンパルナスで首を切られ、しかしその自分の首を持ってパリ郊外サンドニまで歩いたという伝説上の聖人サンドニかも。

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 こちらはキリストの洗礼だろう。

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 とてもドラマチックな場面配置で、作者の力量がうかがわれる。

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 そのキリストが天に昇って行くキリスト昇天。

 障壁部分はとても暗いので、詳しく観察するのはとても大変だが、こうした像も1つ1つ丁寧に造られ、意外な発見ももたらしてくれる場所だった。

 これで、シャルトル大聖堂の見学は終了して、次回は街に出てみよう。






































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絵ガラスの聖母とステンドグラス群ーシャルトル大聖堂⑫

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 南のバラ窓の奥に,一際目を引く素晴らしいステンドグラスがある。「美しき絵ガラスの聖母」または「ブルーマリア」と呼ばれる聖母像だ。

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 頭に栄光の冠をかぶり、幼子キリストを抱いて正面を向いたマリア。青い衣は聖母マリアの象徴でもある。1194年の大火災は北の尖塔を焼失するほどの大惨事となったが、その際残った破片を拾い集めて再構築した貴重なステンドグラスだ。

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 よくよく見ているうちに、その表情はかすかにほほ笑みを湛えているかのように見えてきた。ダヴィンチのモナリザは16世紀の作品だが、こちらはその4世紀も前から魅力的な謎の微笑を浮かべていた。

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 赤い背景から浮かび上がる青のマリアは、神秘的でさえある。シャルトルブルーと称されるこの大聖堂のステンドグラス群の代表的な作品だ。

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 絵ガラスの聖母を初めとして、この大聖堂は素晴らしいステンドグラスがちりばめられている。

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 張り巡らされたステンドグラスの数は172。総面積26000平方mにも及ぶグラスに5000人超の人物が描き尽されている。

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 今ではもう制作者がだれかは知る由もないが、再現することもできないほどの微妙な色味と、細かな技術で描き出されたキリスト教の歴史絵巻は、今なお世界中から訪れる人々にため息をつかせ続けている。

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 先日,NHKテレビでこの大聖堂のステンドグラスについて地元の職人に「シャルトルブルーはもう再現できないのでしょうか」とインタビューしていた。代々続くガラス職人の答えはこうだった。「決して同じような青を再現できないわけではない。でも、今その色を出して飾ることに意味はない。なぜなら聖堂のシャルトルブルーは、完成してから800年もの歳月がそこに深い味わいを加え続けて今の色になったのだから」。

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 「シャルトルのそれのような冥暗な情意の底に忍び込む色調の深さは、おそらく他に見出すことは不可能に違いない」(辻邦生)

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 本来、窓は外の光を室内に取り込む明り採りのスペースとして機能している。だが、シャルトル大聖堂の窓という窓を埋め尽くすステンドグラスは、あえて濃い色彩と人物像とで光をさえぎる。

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 そう、この窓は訪れる信者たちにキリスト教の歴史、宗教の偉大さ、旧約、新約聖書のストーリーを提示する啓蒙のためのスペースだった。

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 そして、その厚い色彩の遮断を乗り越えて降り注ぐ光の方角に存在するキリストや聖母マリアが、一層尊く感じられるような効果装置として機能し続けているのだ。
































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柱の聖母が闇から浮かび上がるーシャルトル大聖堂⑪

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 周歩廊北側に、柱の上に載った1つの像があった。金糸で縫い上げられた衣装をまとったこの像は、台座の上などではなく、空間にぽっかり浮かんでいるように配置されていた。

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 この像もやっぱり聖母。その周辺部分が礼拝堂になっている。

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 ほぼ無表情。といっても技術的に表情を表現できなかったのではなく、意図的に感情を表に出さず、いわば無心の心境にある聖母の姿をそこに置いたような気がする。

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 あからさまに喜怒哀楽の感情が見えるより、すべての状況に対応できる無の形で待ち受ける聖母の方が、祈る側の気持ちを丸ごと受け止めてくれるような気がしてくる。

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 その傍らには優しく花開くユリが、そっと置かれていた。

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 聖母の背後の壁面に、何体もの小さめの像が並ぶ。

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 そんな壁面の中に、神々しいほどの姿をした彫像を発見した。

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 それらをほのめくランプが照らし、信者たちの捧げたろうそくが揺れる。

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 後方にはステンドグラス。ほの暗く濃密な宗教的雰囲気が立ち込める。

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 そんな空間で、絶え間なく祈りを捧げる人々の姿がある。密室ではなく広々と開け放たれた大聖堂の一角なのだが、聖母マリアと祈る信者との間には何者の介入をも許さない濃密な空気が流れており、その光景に思わず一歩退いてしまった。

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 カメラの明度をかなり上げているため明るそうに映っているが、この空間はかなり暗い。

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 ろうそくの灯と吊り下げられたシャンデリアによってようやく全体の見分けが出来るのだが、同じゴシックの大聖堂でも後年に完成したものに比べれば格段に暗さの中に沈んだ印象を受ける。

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 袖廊の隅など光の届きにくい場所には、底知れぬ闇に誘い込まれそうになる箇所もあちこちに存在する。

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 それが、逆に高い窓から濃い色彩のフィルターを通して差し込む光や、スポット的に当たる照明に浮かび上がる聖母像を、一層神々しくしているのではないだろうか。

 そうしたシャルトル大聖堂に潜む闇に身を置くとき、谷崎潤一郎が日本の美的感覚として表現した「陰翳礼讃」が、決して日本独特のものではなく、ヨーロッパの人々にも共通するところがあるのではないかとの感覚に襲われてしまう。






































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「肩車の像」の秘密が明らかになった・南北のバラ窓ーシャルトル大聖堂⑩

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 南のバラ窓は、赤の色調が華やかで、まさに百花繚乱の趣を感じさせる。

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 中央にキリストがおり、福音書記者たちを象徴する動物たちなどに囲まれている。その外側には黙示録の24人の長老たちがずらりと並ぶ。

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 その下のランセットの絵が面白い。5本のランセットのうち中央には聖母マリア。これは定番の姿。だが、他の4つにはいずれにも2人の人間が描かれ、1人はもう1人を肩車している。

 そして、それぞれの人たちの名前が記されていた。左からエレミヤがルカを、イザヤがマタイを、聖母を挟んで、エゼキエルがヨハネを、一番右端ではダニエルがマルコを肩車している。肩車されている方の4人はいずれも福音書記者、つまり聖書を書き記した人物たち。この4人は、初めてキリスト教の全世界への布教を可能にした功労者たちだ。

 ただ、この4人も突然福音書を書き上げることができたわけではない。その前段としてイザヤ、エレミヤなどの預言者たちが教え伝えたものがあったからこそ、福音書の作成が可能になったといえる。

 このことを絵で表現するために、このステンドグラスが制作された。前段の預言者たちの築いた土台の上に乗って4人の書記者たちがキリスト教を大宗教に育て上げる原典を紡ぎだしたと、このステンドグラスは語っている。

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 そう、南扉口で、使徒たちの足元できょろきょろしていた小人たちも、キリスト教の先駆者たち。そんな連綿と続く歴史をユーモラスに表現していたのが、あの像たちだったのだ。

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 左から個別にアップしてみてみよう。エレミヤはメガネ姿。聡明そう。

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 イザヤは長い髭、マタイは長髪のハンサムボーイだ。

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 聖母は左手で軽々とキリストを抱き上げてたくましい。

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 エゼキエルは茶色の髭、胸に子供を抱えている。

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 ダニエルはイスラエルの貴族出身。そのせいか黄金色のきらびやかな服を着ていた。

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 こちらは北のバラ窓。バラ窓とランセットとの間に大きさの異なる飾り窓が付いており、色彩のバラエティに富んでいる。
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 バラ窓は、中心に幼子キリストを抱く聖母マリアがおり、周囲には聖霊を表すハトと天使たちが配置されている。また、さらに外側には、四角い升の形に聖人たちが収まっている。

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 ランセットには旧約聖書の賢人たちが並ぶ。

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 左からメルキセデク、ダビデ。

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 真ん中に、幼いマリアを抱く聖アンナ。これはマリアではなく、その母のアンナだった。

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 右側にソロモン、アーロンと並んでいた。

 これら南北のバラ窓周辺にあるステンドグラスは、非常に濃い色彩が鮮やかに残されており、どれもこれも珠玉の作品群だった。

 辻邦生は「ほとんど耽美的と呼んでいいほどの深い色調と豊かな構図、その赤、青の濃い、澄んだ色の深さは、よしんばパリのノートルダム、ブルージュ、サンドニに行ったとしても見出すことは出来ないであろう」と記しているが、全く同感したひと時だった。






























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さあ、ステンドグラスの頂点へ・西正面薔薇窓-シャルトル大聖堂⑨

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 いよいよシャルトル大聖堂のもっとも注目されるステンドグラス群を見てみよう。最初は西のバラ窓から。西正面、つまり入ってすぐ後ろを振り返ると、頭上中央に大きなバラ窓があり、その下に3つの縦長のステンドグラス(ランセット)が置かれている。

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 バラ窓をアップしてみた。中央にキリストを配置して、「最後の審判」を表現している。直径14m、1216年制作の傑作だ。

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 円は放射状に広がっているが、12の花弁の最も下の部分を見ると、大天使ミカエルが天国に行く人と地獄に落ちる人とを判別している姿がある。ミカエルはフランス語読みにするとミッシェル。あの世界遺産モンサンミッシェルの教会の名前になっている天使だ。キリストは両手を広げて、ミカエルに審判を促しているように見える。

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 ランセット右側は「エッサイの樹」。エッサイとは旧約聖書に登場するダビデの父の名前。中世にはマリアはダビデの家系とみなされており、エッサイを祖先としてキリストが生まれるまでの系譜を樹木が枝分かれして行く形で表現したものだ。最下段にいるのがエッサイ。その腹から大樹が生えて樹木のてっぺんにキリストが描かれている。

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 中央のランセットはキリストの半生。左から右、下から上へと時系列になっている。

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 例えば、1番下の3つの絵は左から受胎告知、マリアのエリザベート訪問、キリスト誕生と続いて行く。

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 マリアのエリザベート訪問を大きくしてみた。濃いブルーがとても印象的だ。

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 また、左のランセットにはキリストの受難と復活の物語が描かれる。最上段にはキリストを抱いたマリアの姿があった。

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 このように、祖先からキリストの最後の審判に至るまで西正面のステンドグラスを辿って行くだけで、文字を1つも使わずにキリストの物語がトータルで理解できるようになっていた。

 ステンドグラスで囲まれた堂内は神秘的とも思える光に包まれた静けさの中にあった。作家辻邦生は「その暗い内陣に踏み込んだ瞬間、信じられない美しさで夜空を飾る五彩の星のように見えたビードロ窓のきらめき」とその著書「シャルトル幻想」に記した。









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大聖堂で“光の空間”を実感したーシャルトル大聖堂⑧

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 だいぶ遠回りをしてしまった。それでは大聖堂の内部に入ってみよう。西正面の入口から一歩中に入ると、一瞬体を包み込む闇の幻想にとらわれる。

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 だが、次第に目が慣れるにつれ高さ36mの上方に据えられた窓から差し込む柔らかい光に気付く。

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 ゴシックの教会が出来る以前のロマネスク教会は、ただただ暗さが支配していたが、天井の重みをフライングバットレスで外に逃がすという技術的革新を成し遂げたゴシックは、壁面に大きな窓を作ることが可能になった。

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 ただ、むやみに明るくはしていない。大きな窓にステンドグラスをはめ込むという新しい構造を取り入れた。ゴシック聖堂は色彩のフィルターで光量を制限し、堂内の荘厳さを保つという技巧をも導入したのだ。

 適度で絶え間ない光(ルクス コンティヌア)の差し込む堂内は、照明なしでも十分の明るさになった。それは大聖堂が“光の空間”と化すことを実現したものだった。

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 中央祭壇に立つ聖母マリア像は、周りを天使たちに囲まれている。この像は18世紀ブリタンの手になる比較的新しいもの。

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 両手を広げて、天に向かって祈りを捧げるという大きなジェスチャーは、やはりバロック以降近年の表現形態をうかがわせる。

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 近くに聖書台が置いてあり、そのアクセサリーはちょっとモダンだった。

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 こんな、人のような。

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 床を見ると、何やら模様が書いてあった。調べてみると、これはラビリンス(迷路)。といっても単なるゲームではない。13世紀に作られた当時のままに残されているもので、聖地エルサレムへのはるかに遠い道のりを象徴するもので、たどり着くことの困難さをも示しているという。Pb256901

 今は椅子がずらりと並べられており、全体を一目で見ることはできない。全体は円形に描かれており、道のりの全長は261.5mものコースになっている。敬虔な巡礼者は、このルートを膝まづきながらその遥かな道を辿るという。

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 西正面近くに大きな十字架があった。薄暗い空間に、さらに影のように伸びる十字架が印象的だった。

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 東側出口の扉も美しい線を浮かび上がらせていた。

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 夜、大聖堂内で聖歌隊の発表があると聞いて出かけてみた。普段は点灯していない照明が、室内全体に点いていて、その光が天井全体を照らし出した。それによって梁や柱など天井周辺が温かく浮かび上がった。

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 オレンジに染まる天井

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 シャルトルブルーのステンドグラスも輝きを放つ。

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 青とオレンジの競演。

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 そしてドームの陰影が、深い趣を湛える。

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 図らずも、夜の大聖堂にも“光の空間”を実感させる瞬間が訪れていた!



































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ユーモラスな小人たちを見つけた・南袖廊ーシャルトル大聖堂⑦

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 次に南袖廊の像たちを見てみよう。中央扉口右側には5人の使徒たちが並んでいる。ふと足元を見ると、あれ、小さな人たちがいる。

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使徒たちの足で押しつぶされそうになりながらも、きょろきょろ周囲を見回している。これまでヨーロッパ各国で見てきた像などでは、通常足元にいるのは聖人たちに退治されて降参する悪者たち、と相場が決まっていた。だが、ここではそうではないようだ。

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 下の小人たちは、むしろ楽しそうにも見えるし、

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 わき見をしたり、「君たちがんばれよ」と声援を送っているようにも見える。

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 きょろきょろと、忙しげでもある。

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 後で聖堂内に入った時に、この上下関係の意味が明らかになるのだが、ここではただ、不思議な上下関係に気付いたことだけを記しておこう。でも、とってもユーモラス。見れば見るほど笑みがこぼれてしまう。

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 中央扉口左側にも同様に使徒たちと小人たちがいた。

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 中央の柱には“美しき神”キリストが、大きな本を持って立っていた。

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 上部のタンパンにあるのは「最後の審判」。ここで人々は天国と地獄との行き先を選別されるわけだ。

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 中央扉口の右側から左側の像たちを眺めてみた。こうしてずらりと並ぶ像は、本当に見事な陰影を伴ってすっくと立っている。

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 大聖堂の裏側は高台になっていて、街の概観が見渡せる。

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 褐色にそろった屋根の色が、落ち着いたたたずまいを演出している。

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 その真ん中にあった紅葉の樹が鮮やかだった。



































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何とも情けない表情のヨハネ像を発見・北袖廊ーシャルトル大聖堂⑥

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 北袖廊の扉口に移ろう。こちらは西口より少し後の年代に造られた彫像群だ。ここで、何とも悲しげな顔をした像を見つけた。洗礼者ヨハネの像だ。羊を抱えているが、よろよろと肩を落とし、長い無精ひげをたらして今にもため息が聞こえてきそうだ。

 シャルトルを訪れた文学者須賀敦子は、この像についてこう記した。「聖者像に囲まれて洗礼者ヨハネが、長いひげを波のようになびかせ口を少し開けて、ほとほと弱ったという表情で壁のくぼみに立っていた」

 キリストより少し先に生まれたヨハネは、まだキリストが救世主として頭角を現す前の時代を生きていた。従って、まだ苦難に満ちたこの世界を救ってくれる人が登場するかどうかはわからない。そんな不安な中で、神の使いとされる羊を抱きながら救世主を待ち続けるヨハネの心情が現れた姿なのだろう。

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 この像は、北袖廊中央扉口の右側にあった。5人の群像は、向かって左側からイザヤ、エレミア、幼子キリストを抱くシメオン、洗礼者ヨハネ、ペテロの順で並んでいる。

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 この扉口では、5人の像の上にもたくさんの像が積み重なるように置かれていた。

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 また、中央扉口左側の像は左からメルキセデス、アブラハムとイサク、モーゼ、サムエル、ダビデ。

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 この中で、2番目のアブラハムとイサクについては「イサクの犠牲」というタイトルでしばしば美術作品に登場する親子だ。

 神が、アブラハムの忠誠度を確かめるために「汝の息子イサクを殺して見よ」と命ずる。キリスト教を信じていればどんな命令でも忠実に従えるはず、という、とんでもない命令だ。アブラハムはその命令を実行しようとする。しかしその寸前、神はアブラハムの忠誠を認めて天使を使わしてその行為をやめさせる、というエピソードだ。

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 1400年フィレンツェ。ドゥオモの隣のサン・ジョヴァンニ礼拝堂の東の扉制作に当たって世界最初の美術コンペが実施された。「イサクの犠牲」をテーマに作品の出来栄えを競ったが、最後まで残ったのがギベルティ(写真左の作品)とブルネレスキ(同右の作品)の2人だった。結局ギベルティの勝利となり、彼は見事な扉を完成させた。

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 その扉は、ミケランジェロが「天国の門」と称賛したことでもよく知られる。一方、コンペに敗れたブルネレスキはローマに建築の修行に出かけ、後にあのフィレンツェのドゥオモのクーポラを完成させている。

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 中央柱には聖母マリアの母アンナ。幼子マリアを抱いて立っている。最初、これは聖母マリアだと思ったが、実はそのお母さんだった。ここのタンパンには聖母戴冠があり、ここだけでマリアの子供のころから天に昇った後までがちりばめられている。

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 こちらは左扉口。ここには受胎告知やマリアのエリザベート訪問などの像が並んでいる。

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 聖堂の裏口に出たところ、突然歓声が上がった。何事かと思ったら、子供たちの団体が一斉にこちらに走ってくる。

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 それも数十人の規模。あっという間に目の前を走りぬけて行く。

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 授業の一環で、故郷にある偉大な世界遺産の見学に来たようだ。

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 見学を終えて、自由時間になったようで、さっそく彼らは階段を駆け下りて、下にある芝生の公園で遊び始めていた。








 











 




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“お飾り”から芸術へ 西正面扉口の彫像たちーシャルトル大聖堂⑤

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 これまで「光のシャルトル」の模様を紹介してきたが、今回からは大聖堂に残る美の競演に目を移して行こう。まずは扉口の彫像群。

 王の扉口と呼ばれる西正面の扉口は、信者たちが長い巡礼の末にたどり着いたシャルトルの地で、最初に目に入る場所だ。ただ、入口に立って見て一瞬とまどったのは、入口が3つもあること。その中でも中心となる中央扉口から見て行こう。

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 入り口の両側に細長い姿をした人たちが並ぶ。この場所には12世紀のもっとも古いものが残っている。

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 最初に惹きつけられたのが、右から2人目の、この王妃像だ。何とおさげ髪!長く長く編んだ髪をたらして、すらりと立つ姿が何とも清々しい。上半身の衣の下の肉体が感じられるくらいな柔らかい衣服の表現。口元は笑っているかのようだ。他の像たちもスリムな体を正面に向けて前を見つめている。

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 少し斜めから見てみよう。中世ロマネスクの教会では、壁の人像は装飾的な形でしか捕えられていなかった。つまりキリスト、マリアなどを表すことさえ分かればそれでOKであって、そこに表情やぬくもりといった実在感を加えておらず、建物に添えられたアクセサリー的な存在でしかなかったといってよいだろう。

 だが、この像たちは確かに非平面的で、まもなく柱から離れて独立しようとしている。また、それぞれに異なった個性的な顔立ちを備えている。この像たちは“飾り”の存在から“芸術”へと移行する記念碑的な人物群像なのだ。

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 柱の縦長の形に合わせながらも、顔などは立体感にあふれているし、無表情から内面の気持ちを伴う感情を持った人物像へと変化しようとしている。一方で、まだ残された垂直性は、どこかで見た記憶があった。ずっと思い出せなかったが、その日の夜食事中に突然記憶が蘇った。そう、その垂直の姿は、飛鳥・法隆寺の百済観音像そのものだ。

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 中央扉口左側の人物像はこちら。4人の像のうち、手前の2人がおさげ髪だ。

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 よく見ると、体をプリーツで覆っており、繊細な細工がなされていることが分かる。

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 上部のタンパン(扉口の上にある半円または尖頭アーチで囲まれた部分。ここに、中心となるテーマが描かれる)を見てみよう。周囲を4体の動物で囲まれた「栄光のキリスト」がいる。動物たちは福音書記者たちの象徴だ。左上から、「翼を持つ人」のマタイ、時計回りで右が「鷲」のヨハネ、右下が「牡牛」のルカ、左下が「獅子」のマルコ。アーチに沿って、天使や黙示録の長老たちがずらりと並んでいる。

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 その下の列には12使徒が勢ぞろい。皆個性的でやんちゃな感じのたたずまいだ。

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 3つの入口のうち右扉口は聖母子の扉口とされる。上部タンパンには聖母子の姿が。キリスト降誕がテーマだ。下部にはキリストの幼年時代の風景が描かれる。

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 タンパン右下をアップしてみた。天使がキリストに誕生を伝える「羊飼いへのお告げ」を表現している。左側にはゆりかごの中のキリスト。羊飼いたちの足元にいる草をはむ羊たちが実に可愛い。中央の羊飼いの像は劣化して顔がなくなってしまっている。それだけ長い年月が経過していることを思わせる。一方、右端の人は体が半分ちょん切られてしまっている。これは明らかに人為的。スペースの計算を誤ってしまったのだろうか。かわいそう!

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 右扉口右側の3人はかなり古典的な顔の造りをしていた。

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 対して左側の3人はちょっと現代的。

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 左扉口に移ろう。こちらも古い感じの顔立ち。

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 右側の1人の像は完全に顔が削り取られていた。何があったのだろうか。

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 上部タンパンは「キリスト昇天」の様子が描かれる。2層目の飛んでいる天使たちがユーモラス。

 こうして中央扉の3つのタンパンを左から順に見て行くと、誕生ー栄光ー昇天と、キリストの生涯を、もう入り口の段階でたどってしまうことになる訳だ。大聖堂はやっぱりすごい。















































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