
これまで「光のシャルトル」の模様を紹介してきたが、今回からは大聖堂に残る美の競演に目を移して行こう。まずは扉口の彫像群。
王の扉口と呼ばれる西正面の扉口は、信者たちが長い巡礼の末にたどり着いたシャルトルの地で、最初に目に入る場所だ。ただ、入口に立って見て一瞬とまどったのは、入口が3つもあること。その中でも中心となる中央扉口から見て行こう。

入り口の両側に細長い姿をした人たちが並ぶ。この場所には12世紀のもっとも古いものが残っている。

最初に惹きつけられたのが、右から2人目の、この王妃像だ。何とおさげ髪!長く長く編んだ髪をたらして、すらりと立つ姿が何とも清々しい。上半身の衣の下の肉体が感じられるくらいな柔らかい衣服の表現。口元は笑っているかのようだ。他の像たちもスリムな体を正面に向けて前を見つめている。

少し斜めから見てみよう。中世ロマネスクの教会では、壁の人像は装飾的な形でしか捕えられていなかった。つまりキリスト、マリアなどを表すことさえ分かればそれでOKであって、そこに表情やぬくもりといった実在感を加えておらず、建物に添えられたアクセサリー的な存在でしかなかったといってよいだろう。
だが、この像たちは確かに非平面的で、まもなく柱から離れて独立しようとしている。また、それぞれに異なった個性的な顔立ちを備えている。この像たちは“飾り”の存在から“芸術”へと移行する記念碑的な人物群像なのだ。

柱の縦長の形に合わせながらも、顔などは立体感にあふれているし、無表情から内面の気持ちを伴う感情を持った人物像へと変化しようとしている。一方で、まだ残された垂直性は、どこかで見た記憶があった。ずっと思い出せなかったが、その日の夜食事中に突然記憶が蘇った。そう、その垂直の姿は、飛鳥・法隆寺の百済観音像そのものだ。

中央扉口左側の人物像はこちら。4人の像のうち、手前の2人がおさげ髪だ。

よく見ると、体をプリーツで覆っており、繊細な細工がなされていることが分かる。

上部のタンパン(扉口の上にある半円または尖頭アーチで囲まれた部分。ここに、中心となるテーマが描かれる)を見てみよう。周囲を4体の動物で囲まれた「栄光のキリスト」がいる。動物たちは福音書記者たちの象徴だ。左上から、「翼を持つ人」のマタイ、時計回りで右が「鷲」のヨハネ、右下が「牡牛」のルカ、左下が「獅子」のマルコ。アーチに沿って、天使や黙示録の長老たちがずらりと並んでいる。

その下の列には12使徒が勢ぞろい。皆個性的でやんちゃな感じのたたずまいだ。

3つの入口のうち右扉口は聖母子の扉口とされる。上部タンパンには聖母子の姿が。キリスト降誕がテーマだ。下部にはキリストの幼年時代の風景が描かれる。

タンパン右下をアップしてみた。天使がキリストに誕生を伝える「羊飼いへのお告げ」を表現している。左側にはゆりかごの中のキリスト。羊飼いたちの足元にいる草をはむ羊たちが実に可愛い。中央の羊飼いの像は劣化して顔がなくなってしまっている。それだけ長い年月が経過していることを思わせる。一方、右端の人は体が半分ちょん切られてしまっている。これは明らかに人為的。スペースの計算を誤ってしまったのだろうか。かわいそう!

右扉口右側の3人はかなり古典的な顔の造りをしていた。

対して左側の3人はちょっと現代的。

左扉口に移ろう。こちらも古い感じの顔立ち。

右側の1人の像は完全に顔が削り取られていた。何があったのだろうか。

上部タンパンは「キリスト昇天」の様子が描かれる。2層目の飛んでいる天使たちがユーモラス。
こうして中央扉の3つのタンパンを左から順に見て行くと、誕生ー栄光ー昇天と、キリストの生涯を、もう入り口の段階でたどってしまうことになる訳だ。大聖堂はやっぱりすごい。
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