沢山の彫像が立つプレトーリア広場の南、がらんとしたベッリーニ広場に古い2つの建物がある。奥の方の建物、マルトラーナ教会に入った。1143年建設という古い建物の外見は、崩れ落ちそうと思えるほどの姿だが、中に入ってびっくりした。
全館が黄金のモザイクで埋め尽くされる驚異の世界が、そこに広がっていた。
この教会の設立者は、12世紀のシチリア王国海軍提督ジョルジョ・デイ・ダンティオキア。初代国王ルッジェーロ2世の重臣だった人物だ。
その人物が描かれたモザイクが、入口すぐの左側にある。「聖母マリアの足元にひれ伏すダンティオキア」。あれまあ、描かれた姿はまるで亀。教会を造った人間なんだから、堂々とした姿でもよいのに、と思うのだけれども、まさに「ひれ伏す」形で畏まっている。なぜこれほどまでに平身低頭の格好を?
そのヒントが、その絵と対をなすように、入口右側に掲げられた絵にあった。
こちらは「キリストに戴冠されるルッジェーロ2世」。当時はたとえ王であってもキリストと目を合わせるどころか、一段下の位置に描かれるのが常識だった。
ダンティオキアは国王の家臣なのだから、さらに下の位置にいなければ、国王からにらまれてしまうことになりかねない、ということだったようだ。
さて、中央ドームを眺めてみよう。全知全能の神・キリスト像がクーポラの中心にどんと構える。その周囲には4人の大天使。だけど、この4人、他の教会の絵とは違ってくにゃくにゃ、四つん這い。リラックスしているというか、寝ているというか。
部分的に平らになった壁面は、キリストと聖母マリアの生涯を描く絵が。これは「受胎告知」。上の写真でくにゃくにゃしていた1人、大天使ガブリエルがマリア目がけて聖霊の象徴であるシロハトを飛ばして仕事中。
こちらは幼子キリストがお参りに行く「神殿奉献」の場面だ。
ドームを支える柱のアーチ状の部分にも絵がある。左側は「キリストの誕生」。頭上に輝くのは彗星!?
その反対側には「聖母マリアの死」が描かれる。聖母の魂をキリストが抱えて天国に運ぶ様子だそうだ。
その他、福音書記者、
聖人たち
天使など、いろいろな像が天井狭しと展開されている。
正面祭壇を見てみよう。中央の大きな器はラピスラズリの聖甕。その上にキリスト昇天の絵が置かれ、
上のクーポラににも鮮やかな彩色の絵が描かれている。
狭い空間だが、びっしりと椅子が並べられているので、そこに座って頭上の“天国”をじっくり眺めれば、至福の時間を過ごすことが出来そうだ。
ただ、あまり熱心に眺めていると、肩が凝り、首が痛くなるのでご用心!
この教会の右隣にあるのはサンカタルド教会。赤い3つの球形の屋根が特徴的。ハーレムに使える宦官がかぶる帽子を模したものと言われており、イスラム支配を経験したシチリアならではの風景だ。
831年から、1072年のノルマン人の征服まではイスラムの支配下にあったため、この時代は建築における基本的な装飾はイスラム美術に基いたものになっている。
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